「ミスは伝えないといけない。でも、言い方ひとつで落ち込ませてしまいそうで怖い」。
初めて後輩や部下を持った人から、研修のあとにいちばんよく受ける相談です。
はじめまして、IT企業の人事部で新卒・中途社員の受け入れ研修を担当している三浦奈緒です。
前職は外資系ホテルで、フロントとコンシェルジュを9年担当していました。
ホテルの新人時代、私は先輩から何度もミスを指摘されました。
同じ内容の注意でも、次の日に足取りが軽くなる言われ方と、一日中引きずる言われ方があったのをよく覚えています。
その差がどこにあったのかを、今は新任リーダー向けの研修で伝える立場になりました。
この記事では、研修の現場で集めてきた「指摘の言い換え」を場面ごとに紹介します。
若手が指摘をどう受け止めているかという調査データや、指導とパワハラの境目についての国の考え方もあわせてまとめました。
若手は「きつい言葉」だけで傷つくわけではない
ミスを指摘するとき、上司が遠慮していると感じている
ジェイックが2026年6月に公表した「上司の遠慮に関する意識調査」は、同社の就職支援サービスを通じて正社員になった20代238名に聞いたものです。
上司が自分に遠慮している、過度に気を使っていると感じることが「頻繁にある」「時々ある」と答えた人は、合わせて33.6%でした。
その人たちに、遠慮を感じる場面を聞いた結果がこちらです。
最も多かったのは「ミスや間違いを指摘するとき」で51.3%。
さらに、遠慮を感じている人の70.0%が「過度に遠慮しないコミュニケーション」を望んでいました。
自由記述には「気を使って遠回しに伝えようとして、真意が伝わらないことがある」という声もあります。
傷つけまいとしてぼかした指摘は、相手からすると「結局どこを直せばいいのか分からない指摘」になりやすいのです。
研修でこの数字を紹介すると、新任リーダーの表情が少し変わります。
「優しく言おう」と気をつけてきた人ほど、ぼかしすぎていた心当たりがあるようです。
部下が「言われたくない」と感じる言葉
もう一つ、パーソルキャリアの調査機関であるJob総研の「2026年 上司と部下の意識調査」も紹介します。
上司がいる部下387人に「上司から言われたくない言葉」を聞いた結果、上位は次のとおりでした。
| 順位 | 言われたくない言葉 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 言わなくても分かるでしょ | 46.8% |
| 2位 | なんでできなかったの? | 42.4% |
| 3位 | やる気あるの? | 38.2% |
3つとも、何を直せばいいのかが入っていません。
問われているのは、相手の察する力や気持ちのほうです。
言われた側は反論もしにくいので、黙って傷つくしかありません。
「傷つけない指摘」とは、やわらかい言葉を選ぶことより、直してほしい点をはっきりさせて、人を責めないことなのだと私は考えています。
指摘する前に決めておくこと
言い回しを考える前に、研修では次のことを先に決めてもらっています。
- どこで伝えるか(ほかの人の目がない場所か、1対1のチャットか)
- 何が起きたのかを、数字や事実で言えるか
- 相手に次に何をしてほしいのか
- 期限はいつか
ホテルのフロントでは、お客様の前でスタッフに注意することはまずありませんでした。
気になることがあれば、バックヤードに戻ってから短く伝えるのが決まりです。
人前で注意されると、内容よりも「みんなに聞かれた」という恥ずかしさのほうが記憶に残ります。
これは職場でも同じです。
事実と、次にしてほしい行動。
この2つが先に決まっていれば、言葉は自然とやわらかくなります。
迷いながら話すと、つい「なんで」「いつも」といった強い言葉で間を埋めてしまうからです。
研修担当が集めた言い換えの例
ここからは、研修の受講者や私自身が実際に使って手応えがあった言い換えを紹介します。
「なんで」を「どこで」に変える
- ついやりがち:「なんでこんなミスしたの?」
- 言い換え:「どの段階で数字がずれたのか、一緒に見てみようか」
「なんで」と聞かれると、人は理由を問われているというより、責められていると感じます。
相手は言い訳を探し始めて、肝心の原因にはたどり着けません。
「どこで」「何が」と聞くと、目線が人から作業に移ります。
「一緒に」を添えると、一人で詰められている感じもやわらぎます。
事実の大きさのまま伝える
厚生労働省のハラスメント対策サイト「あかるい職場応援団」には、「言い方ひとつで変わる会話術【5】育成と指導」というページがあります。
そこでは「~したためしがない」「全然なってない」のように大げさに叱るのでも、「大したことじゃない」と小さく済ませるのでもなく、「納期3日遅れだよ」「1枚のレポートにミスが4つあったよ」と具体的な事実で指摘する方法がすすめられています。
同じページには、「納期に3日も遅れてどういうつもりなんだよ」では責めていることになる、とも書かれています。
事実は同じでも、言い方ひとつで指摘が非難に変わってしまうのです。
私の研修では、次のような例で練習してもらっています。
- ついやりがち:「いつも確認が甘いよね」
- 言い換え:「今月の請求書で、金額の転記ミスが2件ありました」
「いつも」は、たいてい事実ではありません。
言われた側は「いつもではない」と心の中で反論して、そこで話が止まってしまいます。
ぼかさずに、次の行動まで言う
ジェイックの調査結果を思い出してください。
遠回しな指摘は、優しさのつもりでも相手を迷わせます。
- ついやりがち:「この資料、もう少しなんとかならないかな」
- 言い換え:「3ページ目のグラフ、単位が千円と円で混ざっているので、円にそろえて明日の午前中にもう一度見せてください」
後者は少し長いですが、場所、直す内容、期限がすべて入っています。
受け取った側は、落ち込む前に手を動かせます。
中途入社の人や年上の部下に対しても、この形は使えます。
経験がある人ほど、遠回しな言い方をされると「何か含みがあるのでは」と身構えてしまうものです。
具体的に伝えてから「前の職場ではどうしていましたか」と聞くと、相手のやり方を尊重しながら話を進められます。
新卒の受け入れ研修では、指摘したあとに「今の説明で分かりにくいところはありますか」と一言添えるよう伝えています。
質問の形にしておくと、分かったふりをしたまま作業に戻ってしまうのを防げます。
チャットで指摘するとき
チャットでは声のトーンや表情が伝わりません。
対面なら気にならない短い言葉が、冷たく見えることがあります。
- ついやりがち:「ここ違います」
- 言い換え:「確認ありがとうございます。1点だけ、2行目の日付が10月1日になっていますが、正しくは10月8日です。修正をお願いできますか」
最初にひと言添えること、間違いの場所を特定すること、依頼の形で締めること。
この3点を守るだけで、同じ内容でも受け取る印象がずいぶん変わります。
研修で紹介しているものを、表にまとめておきます。
| 場面 | ついやりがちな言い方 | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| 原因を聞く | なんでこうなったの? | どの段階でずれたか、一緒に見てみようか |
| 同じミスが続く | いつも確認が甘いよね | 今月、転記ミスが2件ありました |
| 資料の直し | もう少しなんとかならないかな | 3ページ目の単位を円にそろえて、明日の午前中にもう一度見せてください |
| 報告が遅い | 言わなくても分かるでしょ | トラブルは小さいうちに、その日のうちに教えてもらえると助かります |
| チャット | ここ違います | 1点だけ、2行目の日付が違うので修正をお願いできますか |
ホテルのフロントで覚えた「恥をかかせない」伝え方
ホテルでは、お客様が予約の日付を勘違いしてチェックインにいらっしゃることがありました。
そんなとき「お日にちが違います」とは言いません。
「こちらのご案内が分かりにくかったかもしれません。念のため、ご予約の日付を一緒に確認させてください」。
先輩から最初に教わった言い方です。
間違いは正します。
ただ、相手に恥はかかせない。
主語を「あなた」から「こちら」や「一緒に」に移すだけで、同じ確認が責める言葉にならなくなります。
この感覚は、職場で部下の間違いを指摘するときにもそのまま使えます。
「確認させてください」「一緒に見てみましょう」は、今でも私の口癖です。
最近手に取った本で、この感覚をうまく言葉にしていると感じたのが、諏内えみさんの新刊『大人がしている 気くばりのある話し方』(明日香出版社、2026年9月発売)です。
全7章に101項目が並び、目次には「相手のプライドを守りながら、間違いを正す」「主語を入れ替える技術」「責めるのではなく、動いてもらう技術」といった項目があります。
指摘の場面だけでなく、頼む、断る、謝るといった場面にも章が割かれています。
紹介文にある「気くばりとは、自分を犠牲にして相手に合わせることではありません」という一文は、遠慮しすぎて指摘できなくなっている新任リーダーにこそ読んでほしいと思いました。
言葉の引き出しを増やしたい人には、手元に置いておきやすい一冊です。
強く言うべき場面と、パワハラとの境目
「言い方に気をつけすぎて、必要なことまで言えなくなるのが怖い」という声も研修ではよく聞きます。
ここは国の考え方を確認しておくと安心です。
あかるい職場応援団の「パワーハラスメントとは」には、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」と書かれています。
一方で、相手に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動などは当然パワハラに当たり得る、とも明記されています。
厚生労働省のパワハラ防止指針では、「精神的な攻撃」に当たると考えられる例として、人格を否定するような言動や、他の労働者の前で大声を出して威圧的に叱ることを繰り返すことなどが挙げられています。
反対に、再三注意しても遅刻が改善されない人に一定程度強く注意することは、該当しないと考えられる例に入っています。
厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)では、過去3年間に勤務先でパワハラを受けた人は19.3%でした。
内容で最も多かったのは「精神的な攻撃」の48.5%で、行為者は「上司(役員以外)」が65.7%です。
企業側が挙げた課題の1位も「ハラスメントかどうかの判断が難しい」の59.6%でした。
判断に迷ったときは、研修で配っている次の確認項目を使ってみてください。
- 相手の人格や能力ではなく、行動について話しているか
- ほかの人の前で、大声で言っていないか
- 同じ件を長時間、何度も責めていないか
- ミスの重さと、注意の強さが釣り合っているか
強く言うこと自体が問題なのではありません。
行動を正すための言葉か、人を攻撃する言葉か。
境目はそこにあります。
指摘のあとのひと言で、次の報告が変わる
指摘は、伝えた瞬間に終わるものではありません。
直してくれたあとに何を言うかで、次にミスが起きたときの報告の早さが変わります。
先ほどの「会話術【5】」のページにも、攻撃的すぎる上司の下で育った部下は、怒られるのが怖くて失敗を隠すことにつながる、と書かれています。
私も、ホテルの新人時代に同じことを経験しました。
注意された翌日、先輩が「昨日のあれ、今日はばっちりだったね」と声をかけてくれたことがあります。
それから私は、小さなミスでもすぐ先輩に報告するようになりました。
言いにくいことを言いやすくしてくれたのは、注意そのものより、そのあとのひと言でした。
研修では、次のようなフォローの言葉をすすめています。
- 「昨日の件、すぐ直してくれてありがとう。助かりました」
- 「今回の資料、単位がそろっていて読みやすかったです」
- 「気になることがあったら、小さいうちに声をかけてくださいね」
ほめるときも、「頑張ったね」より「どこがよかったか」を具体的に伝えると届きます。
まとめ
部下の間違いを傷つけずに指摘するためのポイントを振り返ります。
- 若手は、きつい言葉だけでなく、遠回しでわかりにくい指摘にも困っている
- 「なんで」ではなく「どこで」「何が」と聞くと、目線が人から作業に移る
- 「いつも」を使わず、事実の大きさのまま伝える
- 直す場所、内容、期限まで言い切ると、相手はすぐに動ける
- 行動を正すための指導はパワハラではない。人格を責める言葉は避ける
- 直してくれたあとのひと言が、次の報告のしやすさを決める
最初から上手に言える人はいません。
私も、ホテルの先輩の言い方を何年もかけてまねしてきました。
まずは次に指摘する場面で、「なんで」を一つだけ「どこで」に変えてみてください。
相手の反応が少し変わるはずです。